書架之細充 2021 第六回

2021年4月20日 - 書架の細充

文人墨客編集部より、文芸評論家であり書評家である細谷正充氏が気になる本を紹介する「書架之細充」をお送りします。

今回は、七野りく・著「公女殿下の家庭教師8 再臨の流星と東都決着」です。
表画 cura
装幀 草野剛
KADOKAWAファンタジア文庫 ISBN 978-4-04-073853-6
発売日 2021年3月19日
定価 715円(本体650円+税)

最近の面白いラノベは何と聞かれたら、七野りくの『公女殿下の家庭教師』と『辺境都市の育成者』と答える。どちらもネットの小説投稿サイト「カクヨム」に掲載中の作品を、商業出版したものだ。ただし大幅な改稿(九割とか)が加えられているので、話の大筋は変わらないものの、別バージョンといいたくなる内容になっている(『公女殿下の家庭教師』第七巻で、古き盟約の使者をあの人物に変更したのはグッドすぎる)。
どちらもリーダビリティ抜群の作品なのだが、ちょうど第八巻で「王国動乱編」が完結した『公女殿下の家庭教師』を取り上げよう。舞台は魔法のある異世界。主人公のアレンは設定山盛りであり、詳しく説明したらこの書評がそれだけで終わってしまう。魔力は少ないが魔法の制御技術が優れており、さらに博覧強記の若者とだけ記しておこう。また、彼の周囲には、「剣姫」と呼ばれるパートナーのリディヤ・リンスターや、教え子のティナ・ハワード(どちらも王国四大公爵家の娘で、極致魔法の使い手)を始め、とんでもない才能を持つ美少女たちに囲まれている。「カクヨム」版に比べると砂糖増量で、いささか胸焼けするところもあるが、その方面が好きな人なら大喜びだろう。
まあ、私の目当ては魔法バトルや戦乱であり、王国の内乱に各国の思惑が絡んだ「王国動乱編」は、夢中になってページを捲った。この作者の美質は、ハッタリの効いた文章で、主人公たちを魅力的に描くことだろう。いやもう、本当に格好いいのだ。
さらにこの世界にある、幾つもの謎や秘密が、ストーリーの進展と共に、明らかになっていく。とはいえ、まだまだ不明な点が多い。だから先へ先へと、読まずにはいられないのである。
by 細谷正充

https://www.kadokawa.co.jp/product/322006000823/