書架之細充 2021 第二回
文人墨客編集部より、文芸評論家であり書評家である細谷正充氏が気になる本を紹介する「書架之細充」をお送りします。
今回は、新美健・著「カブ探」です。
表画 ウラモトユウコ 装幀 木庭貴信(オクターヴ) カバー印刷 錦明印刷(株)
徳間文庫 ISBN 978-4-19-894608-1
発売日 2021年01月15日
定価 690円(+税)
デビュー以来、時代小説を書き続けてきた新美健が、初めて現代を舞台にした作品に挑んだ。それが本書だ。物語の主人公は、地方都市で私立探偵をしている南原圭吾。妻とは離婚しており、大学生の娘・梨奈とふたり暮らし。ホンダのスーパーカブを愛好し、日常的に乗り回している。
そんな圭吾が、幼馴染で、今はヤクザをしている荒俣雄二からの、依頼を受ける。盗まれた組の車を見つけてほしいというのだ。さっそく捜査を始めた圭吾は、バイクの窃盗団に行き着き、雄二たちと共に殴り込みをかけるのだった。
圭吾は善良な人間だが、独自のルールがある。必要だと思えば、躊躇なく暴力を使うのだ。このノリは、六〇年代のアメリカの通俗ハードボイルドだ。通俗ハードボイルド好きの私は、大喜びである。
以後、スーパーカブのパーツ探しを引き受けたり、組長の愛人を巡るゴタゴタにかかわったりしながら、スーパーカブがメインの民間主催レースへと、ストーリーはなだれ込んでいく。このレースにもミステリーの展開があるのだが、そこは読んでのお楽しみ。いやもう、楽しい話だ。
そして本書は、カブへの愛を語った物語でもある。そもそも作者自身が、バイク乗りであり、スーパーカブを愛用している。だからだろう。物語を通じてカブの素晴らしさが、これでもかと書き込まれているのだ。ここも大きな読みどころである。
そういえば私がカブの凄さを知ったのは、新谷かおるの短篇漫画「暴走ホリック」だった。そんな風に本書を読んで、新たにカブの凄さに気づく人もいるだろう。カブと探偵。ふたつの魅力を巧みに融合させた痛快作なのである。