書架之細充 2020 第八回
文人墨客編集部より、文芸評論家であり書評家である細谷正充氏が気になる本を紹介する「書架之細充」をお送りします。
今回ご紹介するのは、宝島社より
「生活魔術師達、大聖堂に挑む」丘野境界:著1,250円(+税)
イラスト東西 comic川上ちまき
丘野境界の「生活魔術師達」シリーズの第五弾が刊行された。私は、このシリーズが大好きなので、さっそく購入して読んでしまった。何がそんなに面白いのか。キャラクターの立て方と、ストーリーの組み立てが巧いのである。
そもそもこのシリーズは、ネットの小説投稿サイト「小説家になろう」に掲載された短篇「生活魔術師達、ダンジョンに挑む」から始まった。ノースフィア魔法学院で、生活魔術科の予算が大幅に削られる。どうやら戦闘魔術科の長である、ゴリアス・オッシが圧力をかけたらしい。これに怒った生活魔術科の生徒のケニー・ド・ラック、ソーコ・イナバ、リオン・スターフの三人は、学院で引き受けていたバイトを放り出し、ダンジョンに挑んで金を稼ぐことにした。実は三人は、規格外れの魔術師だったのだ。一方、三人のいなくなった学院は混乱に陥り、オッシの株が大いに下がるのだった。
というストーリーが、コンパクトにまとめられていた。ラストの決めのセリフまで含めて、短篇としての完成度は高い。しかしそれだけに、もっと読みたいという気持ちが募った。だからこの短篇が長篇化され、商業出版されたことに喜んだのである。しかも本書で五冊目だ。いやもう、嬉しいったらありゃしない。
今回は、教会と揉めたケニーに聖女の幽霊が取り憑き、ひと騒動が持ち上がる。教会の権威をものともしないケニーたちの言動が愉快痛快。また、敵役として教会の枢機卿が出てくる。枢機卿がやり込められる、いわゆる〝ざまぁ〟があるが、殺伐とした展開にはならない。これはシリーズ第一弾のオッシも同様だ。この適度なバランス感覚も、作者の強みである。こういう手軽なエンターテインメントは、読んでいて楽しい。いつまでも続いてもらいたいシリーズなのだ。
ISBN 978-4-299-00474-1