書架之細充 2022 第四回
文人墨客編集部より、文芸評論家であり書評家である細谷正充氏が気になる本を不定期に紹介する「書架之細充」をお送りします。
今回、ご紹介いたしますのは、
護衛艦あおぎり艦長 早乙女碧
時武里帆/著
表画 げみ
装幀 新潮社装幀室
発行形態 文庫、電子書籍
判型 新潮文庫
ISBN 978-4-10-103841-4
定価 649円
電子書籍 価格 649円
電子書籍 配信開始日 2022/02/28
https://www.shinchosha.co.jp/book/103841/
練習艦「ゆきむら」の艦長を経て、陸上勤務が続いていた早乙女碧二佐は、五年ぶりに艦長に抜擢された。しかも本格的な護衛艦の「あおぎり」だ。海上自衛隊では四人目となる女性艦長として、大きな期待と覚悟を抱く碧。だが先任艦長の山崎二佐から受け継ぎのとき、砲術士の坂上光輝三尉が退職を希望していると聞く。まだ新米の幹部乗務員は、なぜ退職しようとしているのか。
最初から爆弾を抱えて困惑する碧だが、さらに初出航直前に、船務科のWAVE(海上自衛隊の女性自衛官)の内海佳美三曹がいないことが発覚する。いわゆる「未帰艦者」だ。ちょっと癖があるという副長の暮林省一郎三佐の反対を受けながら碧は、内海を心配する坂上と共に、彼女の行方を追う。
昔のエンターテインメント・ノベルに登場する自衛隊は、クーデターを起こす役が多かった。しかし時代は変わった。現在では自衛隊を題材にしながら、さまざまなタイプの作品が生まれている。本書もそのひとつしいっていいだろう。作者の時武里帆は、女性自衛官として初めて遠洋練習航海に参加したという経歴の持ち主であり、自衛隊の描写に関しては自家薬籠中のもの。第二章から三章にかけて、「あおぎり」に着任し、幹部乗務員の挨拶を受けた後、分隊点検をする様子が、克明に書かれている。だが退屈することはない。護衛艦の内部や、海上自衛隊の言動はこういうものなのかと、興味深く読むことができたのである。
さらに内海三曹の件が明らかになると、ミステリー味が増す。騒動の解決後に新たな波乱を発生させて、最後まで読者をハラハラさせる手際も鮮やか。護衛艦を舞台にした、斬新なお仕事小説の誕生を喜びたい。
by 細谷正充