書架之細充 2022 第二回
文人墨客編集部より、文芸評論家であり書評家である細谷正充氏が気になる本を紹介する「書架之細充」をお送りします。
今回ご紹介するのは、
作家で億は稼げません
吉田 親司 著
定価 1,650円(本体 1,500円+税10%)
発売日:2021-11-29
ISBN:978-4-295-20231-8
イラスト:速水螺旋人
本文校正:石井三夫
https://shinsho.mdn.co.jp/books/3221903018/
作家になりたい人のために、小説の書き方を指南した本は多い。さらに近年では、出版業界での生き残り方まで説明してくれるものもある。本書はその、業界での生き残り方に特化した本だ。これから作家を目指す人にも、大いに参考になる。だが、一番必要とするのは、デビューしたはいいが、これからどのように作家としてやっていけばいいか分からないでいる、新人作家であろう。
しかし赤裸々な本だ。作者の吉田親司は、仮想戦記を中心にして、二十年以上も筆一本で生活しているエンターテインメント作家である。多数の作品を発表しており、桃園宮内親王那子さまを主役とする「女皇の帝国」シリーズが有名だ。そうした作品がいかに生まれたかも書かれているが、それ以上に重きを置いているのが、業界での身の処し方である。作家としての歳月で培った方法は、きわめて実戦的。どれも役に立つものばかりだ。
たとえば、出版社のパーティーで名刺を配る。あるいは新刊が出たら、あちこちに献本する。今の若者から見れば、泥臭く感じるかもしれない。だが、作家の主な仕事相手は編集者だ。人間関係を大切にし、人脈を広げることで仕事が来ることは少なくない。社会人としての一般常識を弁えながら、積極的に行動するのが肝心である(もちろん仕事が出来ることが前提だが)。このようなノウハウが惜しげもなく披露されているのだから、新人作家は大いに参考にしてほしい。
なお個人的には、作者自身の体験を踏まえた、仮想戦記の歴史が興味深い。人気のあった仮想戦記が、いかにして衰微していったのか。ひとつのジャンルの流れが、理解できるようになっている。仮想戦記に関する、貴重な資料でもあるのだ。