書架之細充 2022 第七回

文人墨客編集部より、文芸評論家であり書評家である細谷正充氏が気になる本を不定期に紹介する「書架之細充」をお送りします。

今回、ご紹介いたしますのは、

贋物(がんぶつ)霊媒師
櫛備十三(くしびじゅうぞう)のうろんな除霊譚

著者      阿泉来堂著 《作家》
装幀 西村弘美
表画 sekuda
税込価格      968円(本体価格880円)
発売日2022年05月09日
ISBN978-4-569-90217-3
https://www.php.co.jp/books/detail.php?isbn=978-4-569-90217-3

第四十回横溝正史ミステリ&ホラー大賞〈読者賞〉を受賞した『ナキメサマ』(投稿時タイトル『くじりなきめ』)から始まった「那々木悠志郎」シリーズで知られる阿泉来堂が、新たな作品を上梓した。それが『贋物霊媒師 櫛備十三のうろんな除霊譚』だ。主人公は霊視能力はあるが、除霊のできないインチキ霊媒師の櫛備十三。助手の美幸に尻を叩かれ、鋭い洞察力とはったりで、心霊関係の問題を解決していく。

本書は全四話で構成されている。第一話「まじめな男」は、名前しか思い出せない霊が櫛備たちと出会い、自分が殺人事件の犯人になっていることを知る。「那々木悠志」郎シリーズでもそうだったが、作者はホラーの世界にミステリーの趣向を盛り込んでくる。霊から話を聞き、真実を見抜く櫛備の役割は、名探偵といえるだろう。

だからといって、ホラーの部分が甘いわけではない。第二話「初恋」も、殺人事件を扱っているが、真相が判明してからの怪異の描写が凄まじい。ホラー小説として、存分に楽しめるのだ。

そして、ハートウォーミングな第三話「自慢の兄」を経て、第四話「寄り添うものたち」になるのだが、実に感心した。いわゆる〝幽霊屋敷物〟なのだが、発想が斬新である。しかも怪異の描写が、とんでもなく怖いのだ。

さらにいえば、最初から隠されていたある秘密が、ストーリーの流れの中で、明らかになる。ミステリーを読み慣れていれば、気がつく人もいるだろう。実際、私も分かった……と思ったらエピローグで、もう一捻りしてくるではないか。うーん、過去に何があったのだ。この謎が気になるので、一刻も早く、シリーズ第二弾を刊行してほしいのである。

by 細谷正充