書架之細充 2022 第一回

文人墨客編集部より、文芸評論家であり書評家である細谷正充氏が気になる本を紹介する「書架之細充」をお送りします。

今回ご紹介するのは、
コージーボーイズ、あるいは消えた居酒屋の謎
笛吹太郎
ミステリ・フロンティア
判型:四六判仮フランス装
ページ数:248ページ
初版:2021年11月30日
ISBN:978-4-488-02014-9
Cコード:C0093
定価:1,760円 (本体価格:1,600円)
装画:オオタガキフミ
装幀:岩郷重力+k.k
http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488020149

 短篇でデビューした作家が、最初から大きな注目を集めることはあまりない。やはり広く知られるのは、本を出してからだろう。笛吹太郎の場合もそうだ。第九回創元推理短編賞最終候補となった「強風の日」が、「創元推理」二〇〇三年春号に掲載されデビュー。しかし、この時点では知る人ぞ知るといった存在であった。
 その後、「ミステリーズ!」に本書収録の第一話と第二話を掲載。さらに五作を書き下ろし、本書を刊行したのである。これでミステリー・ファンの注目を、一気に集めるであろう。というのも作品が面白く、なおかつミステリー愛に溢れているからだ。
 物語の舞台は、荻窪にあるカフェ〈アンブル〉。この店で《コージーボーイズの集い》というミステリー・ファンの集まりがあった。メンバーは、作家・古書店主兼評論家・同人誌の主幹・編集者の四人。語り手は編集者の夏川ツカサだ。第一話「コージーボーイズ、あるいは消えた居酒屋の謎」は、メンバーの作家が殺人事件の容疑者となる。事件の当日、馴染みの編集者と居酒屋を梯子していたが、ふたりとも記憶があやふや。アリバイの証言を得ようとするが、三軒目に行った店が思い出せない。虱潰しに店を当たっても、どこも作家が来ていないという。メンバーたちは、あれこれ推理をするが……。
 この消えた居酒屋の謎を解くのが、〈アンブル〉の店長の茶畑だ。盲点を突いた真相が鮮やかであり、さらにもう一捻りがある。伏線も巧みで、ミステリーの楽しさを満喫した。
 以後、メンバーの連れてきたゲストの話す謎を、茶畑が解いていく。と書けば分かるように、本書はアイザック・アシモフの「黒後家蜘蛛の会」シリーズのスタイルを踏襲しているのだ。各話が終わった後に、作品解説が入るところまで踏襲しているから恐れ入る。作中での会話を見ても、ミステリーが好だという作者の気持ちが伝わってきて、嬉しくなってしまった。
 各話の出来にはバラつきがあり、なかにはすぐに謎の真相が分かってしまう作品もある。だが、第一話や、第五話「コージーボーイズ、あるいは謎の喪中葉書」を読むと、作者のミステリー・センスは信用に値する。本格的にデビューした笛吹太郎の、今後の活躍に期待したい。