書架之細充 2021 第十三回

文人墨客編集部より、文芸評論家であり書評家である細谷正充氏が気になる本を紹介する「書架之細充」をお送りします。

今回ご紹介するのは、
聖女ヴィクトリアの考察 アウレスタ神殿物語
著者 春間　タツキ
表画　六七質
装幀　青柳奈美
定価： 704円（本体640円＋税）
発売日：2021年08月24日
判型：文庫判
商品形態：文庫
ページ数：304
ISBN：9784041115251
https://www.kadokawa.co.jp/product/322103000576/
　タイトルに興味を惹かれ、書店で本書を手にした。そして、カバー袖の経歴を見たら、『結婚初夜のデスループ ～脳筋令嬢は何度死んでもめげません～』の作者ではないか。ペンネームが違っていたので分からなかった。『結婚～』が面白かったので、こちらもすぐさま購入である。
　物語は、アウレスタ神殿の第八聖女ヴィクトリア・マルカムが、聖女位を剥奪され、五日間の懲罰房入りを経て、追放処分となることを宣言される場面から始まる。おお、ネット小説でよくある〝聖女追放〟物かと思ったら、追放される前に助けが現れた。エデルハイド帝国の騎士のアドラス・グレインだ。懲罰房からヴィクトリアを連れ出した彼は、自身が皇子ではないことを証明してくれと彼女に頼んだ。ある事情から皇子である可能性が持ち上がったが、アドラスにとっては迷惑なことだったのだ。
　霊魂や魔力現象を視るできることから〝物見の聖女〟といわれるヴィクトリアは依頼を受け、アドラスと彼の従士であるリコと共に、帝国に向かう。だがそれによりヴィクトリアは、帝位継承を巡る争いに巻き込まれるのだった。
　本書は、第六回角川文庫キャラクター小説大賞〈奨励賞〉受賞作だが、ミステリーの新人賞に応募しても受賞できたのではないか。それほどミステリーの部分が、よくできている。中盤でアドラスが、皇子かどうか判明するのだが、展開は予断を許さない。終盤にヴィクトリアが暴く真実は、インパクトがあった。呪術のルールなど、ファンタジー世界ならではの設定を伏線とする、手際も鮮やかだ。
　また、次々と起こる騒動が面白く、ページを繰る手が止まらない。ヴィクトリアをはじめとする、キャラクターも魅力的。異世界ファンタジーのファンと、ミステリー・ファンの、どちらにもお勧めしたい作品なのだ。

by細谷正充