書架の細充 2024-01

文人墨客編集部より、文芸評論家であり書評家である細谷正充氏が気になる本を不定期に紹介する「書架之細充」をお送りします。

今回、ご紹介いたしますのは
「対怪異アンドロイド開発研究室」
著者:饗庭淵あえばふち
表画:與田
装幀:大原由衣
定価:\1650(税別)
発売日:2023年12月22日
ISBN:9784041143698
KADOKAWA
https://www.kadokawa.co.jp/product/322307001261/

本書は、第八回カクヨムWeb小説コンテスト〈ホラー部門〉特別賞受賞作である。ただし内容はホラーというより、ホラーSFと呼びたくなる。そのSFの部分を担っているのが、近城大学で「対怪異アンドロイド開発研究室」を率いる白川有栖教授が作った、自律汎用AIを有するアンドロイドの〝アリサ〟だ。怪異の調査をするアリサは機械ゆえに、祟りも呪いも受けず、恐怖心も持っていない。このアリサの設定と描写が、実に緻密かつリアルであり、読んでいて何度も感心した。

そのアリサが「異界」と化した、廃村・電車・雑居ビルなど、さまざまな場所で怪異と対峙する。面白いのは、アリサの能力をもってしても、怪異に立ち向かうのが困難なこと。それにより、理解できない怪異の怖さが際立つのである。SFの要素をガッツリ入れたことで、ホラーの要素が強固になっているのだ。

さらにストーリー展開の巧さも見逃せない。「不明廃村」「回葬列車」と連作風に物語は進んでいくが、研究室がさまざまな調査を依頼している探偵の谷澤宏一が出てくる「共死蠱衣」で、怪異と研究室の距離感が縮まる。また、各話のラストに研究室の場面が付け加えられているが、白川教授が怪異を研究するのに、深い訳があると匂わされる。

そして「餐街雑居」で霊能力者の桶狭間信長(仮名)が登場し、アリサのモデルが判明。以後、読者の興味を惹くフックを幾つも作りながら、クライマックスへと向かっていく。新たに研究室に入った新島ゆかり(愉快なキャラである)が主役になる「非訪問者」など、独立した短篇として読んでも完成度が高い。しかも最終話の前に、ちょっと本筋からズレたこの話を置いたのは、全体の流れを考えてのことだろう。小説の書き方が、よく分かっているのだ。だから作者の饗場淵が、大いに有望な新人だと断言できるのである。

by 細谷正充