書架の細充 2023ー05

文人墨客編集部より、文芸評論家であり書評家である細谷正充氏が気になる本を不定期に紹介する「書架之細充」をお送りします。

今回、ご紹介いたしますのは
「いつかみんなGを殺す」
著者:成田名璃子
表画:不明
装幀:不明
定価:¥1,980(税込)
発売日:2023/05/15
ISBN 978-4-75841442-5
角川春樹事務所
http://www.kadokawaharuki.co.jp/book/detail/detail.php?no=6994

現在食事中の人、もしくはこれから食事をしようと思っている人は、書評を読むのを控えてほしい。なぜなら本書の題材は、アレなのだ。黒光りしていて、カサカサと動く〝G〟なのだ。成田名璃子、とんでもない作品を書いたものである。

東京の超高級老舗ホテル「グランド・シーズンズ」の若き総支配人・鹿野森優花は、今日のイベントを成功させれば、会長である祖父からホテルを譲るといわれている。だが、アンチ優花派の副支配人・穀句ローチが、イベントを失敗させようとGをバラまいた。さらに、大物歌舞伎役者の市川硼酸次が舞台前の験担ぎに使う巨大Gも逃げ出していた。G退治に特化したホテルの清掃員で、訳ありの過去を持つ姫黒マリや、Gによって運命の狂ったピアニストの手押奏など、多くの人々の人生が、ホテルで交錯する。

限定された場所を舞台にして、人々が織り成す人生模様を描いた物語を、グランド・ホテル形式という。映画『グランド・ホテル』から生まれた言葉だ。本書も、その系譜に連なるが、グランド・ホテルではなく、Gランド・ホテル形式といいたくなる。それほどGが跳梁跋扈するのだ。

そこに人々の人生が、複雑に絡まり合う。最初は、スラップスティック・コメデイとして笑いながら読んでいたが、しだいに熱い展開になっていくではないか。コンプレックス、失敗への恐れ、他人への嫉妬……。誰でも心の中に鬱屈したものを抱えている。意外な過去を持つマリは、それをGに準えるのだ。

だからGを殺せ。己の内なるGを殺せ。ドタバタ騒ぎを経て、それまでの自分を乗り越えた登場人物の姿に胸打たれた。まさかGを題材にした話で、これほど感動するとは思わなかった。成田名璃子、本当にとんでもない作品を書いたものである。

by 細谷正充