書架の細充 2023ー02

文人墨客編集部より、文芸評論家であり書評家である細谷正充氏が気になる本を不定期に紹介する「書架之細充」をお送りします。

今回、ご紹介いたしますのは

四日間家族
著者 川瀬 七緒
装幀 坂野公一(welle design)
写真 Adobe Stock
定価: 1,870円(本体1,700円+税)
出版社:KADOKAWA
発売日:2023年03月01日
ISBN9784041134504
https://www.kadokawa.co.jp/product/322210001445

「仕立屋探偵 桐ヶ谷京介」シリーズが好調な川瀬七緒だが、優れた単発作品も上梓している。本書は、四人の自殺志願者が捨てられた乳児を見つけたことから、とんでもない騒動に巻き込まれる犯罪小説だ。

 倒産した会社の社長。コロナ下の闇営業でクラスターを発生させた、スナック経営者の老婆。元ボーイスカウトの少年。ある理由でヤクザ者に追われている女性。年代も性別もバラバラな四人が、集団自殺をするため、車で山の中に入った。しかしそこで、捨てられた乳児を発見。つい助けてしまったが、乳児は訳ありらしい。正体不明の敵から、乳児誘拐犯としてネットに晒されてしまった。しだいに追い詰められていく四人だが、乳児のために、逆襲に出る。

 主人公は、ヤクザ者に追われている女性・坂崎夏美。それぞれ癖のある自殺志願者四人の中で、一番歪んでいる人間だ。夏美が何をやり、どうしてヤクザ者に追われるか判明したとき、なんともいえない気持ちになった。とはいえ一方のヤクザ者も歪んでいるので、夏美の嫌なキャラクターが中和されている。こうした人物の描き方が見事だ。

 しかも彼女は頭脳明晰。そんな夏美を中心に、どん底の状況の四人が、乳児に関する真実を暴いていく過程が面白い。また、四人が乳児のために協力しあい、しだいに疑似家族のようになる様は、ルーティンであるが楽しめた。

 さらに乳児の背後にある犯罪者たちが、なんともおぞましい。犯罪者たちも四人もネットを利用するが、そこから見えてくる、自分勝手な正義感に酔った人々の姿も現代的だ。夏美以外の三人にもドラマがあり、読みごたえは抜群。複数の重い題材をひとつに纏め、気持ちのいいラストに着地させた、作者の手腕を称揚したい。

 

by細谷正光