書架之細充 2021 第十二回
文人墨客編集部より、文芸評論家であり書評家である細谷正充氏が気になる本を紹介する「書架之細充」をお送りします。
今回ご紹介するのは、
『人類最初の殺人』
著者 上田未来
表画・題字・挿絵 つのがい
装幀 小川恵子(瀬戸内デザイン)
発売日:2021年8月27日
定価:1,595円 (本体1,450円)
判型:四六判
ISBN:978-4-575-24432-8
https://www.futabasha.co.jp/introduction/2021/jinruisaisyo/index.html
二〇一九年に「濡れ衣」で、第四十一回小説推理新人賞を受賞した上田未来の、初の著書が刊行された。さまざまな〝人類最初の犯罪〟を題材にした短編集だ。
最初の二作は、なんと原始時代が舞台。「人類最初の殺人」は、ナイジェリアのホモ・サピエンスの集団に所属しているルランが、仲間のハンハンが殺人犯ではないかという疑惑を抱く。続く「人類最初の詐欺」は、イングランド東方沖のドッガーランドで、ヤームという要領のいい男が、女だけの集団に入り込む。どちらも後半の展開に捻りがあり、ラストでタイトルの意味が分かるようになっている。しかし原始時代を舞台にしたミステリーとか、よく実行したものだ。それだけで称賛に価する。
第三話「人類最初の盗聴」は、飛鳥時代が舞台。父親の遺した歌を献上して、朝堂で重宝されていた官人の海老丸が、大海人皇子暗殺計画に巻き込まれる。糸電話のような盗聴器が登場するが、ちょっと無理やりストーリーに組み込んだ感あり。しかし物語が面白く、危難を逃れた主人公が歌心に覚醒する展開に感心した。紀元前のエジプトを舞台にした「人類最初の誘拐」も、予想外の方向に転がっていくストーリーで読ませる。
さしてラストの「人類最初の密室殺人」だが、弥生時代の終末期が舞台。ヤマの国を支配するヤソミコの〝山の裁き〟の秘密が、ヒロインの活躍によって暴かれる。密室殺人の方法だけでなく、ヒロインの正体に妙味がある。ただしヒロインの名前は変えてほしかった。これでは最初からバレバレである。
本書は、時代ミステリー集ということになるが、私が最も評価するのはストーリーの面白さだ。特に「人類最初の盗聴」は、歴史奇譚として楽しめた。できればミステリーだけでなく、歴史時代小説にも挑んで欲しいものである。
by細谷正充