書架の細充 25-04「大阪府警-遠楓ハルカの捜査日報」
文人墨客編集部より、文芸評論家であり書評家である細谷正充氏が気になる本を不定期に紹介する「書架の細充」をお送りします。
今回、ご紹介いたしますのは
「大阪府警-遠楓ハルカの捜査日報」
著者 松嶋 智左著 《作家》
税込価格 968円(本体価格880円)
発売日 2025年01月06日
判 型 文庫判
ISBN978-4-569-90452-8
PHP文庫
https://www.php.co.jp/books/detail.php?isbn=978-4-569-90452-8
元警察官で、日本初の女性白バイ隊員という経歴を持つ松嶋智左は、現在、多数の警察小説を上梓する人気作家になっている。一冊ごとに読者の興味を惹くフックがあるのが、作者のいいところ。本書では〝倒叙ミステリー〟に挑んでいる。ちなみに倒叙ミステリーとは、物語の冒頭で犯人を明らかにしている作品のこと。テレビの刑事ドラマ『刑事コロンボ』『古畑任三郎』といえば、どういうものか分かってもらえるだろう。
本書は「道頓堀で別れて」「古い墓」「呉越同舟」「be happy」の四作が収録されている。冒頭の「道頓堀で別れて」は、夫の存在が邪魔になった女優が完全犯罪を企む。なんと大阪中央署の一日署長になった女優が、式典で道頓堀川を船で移動していているときに、夫がマンションから墜落するシーンを目撃するのだ。まさに究極のアリバイである。倒叙スタイルであるからこそ、不可能趣味が強まっているのだ。
この事件を担当するのが、大阪府警捜査一課の遠楓ハルカ班だ。ずば抜けた美貌とプロポーションを持つハルカは、推理能力や洞察力も抜群。個性的な班のメンバー(新たに遠楓班に来た佐藤を除き、描写が少ないのがちょっと残念)を使いながら、あっという間に犯人を見抜き、追い詰めていく。ハルカと犯人の頭脳戦が、たまらなく面白い。
さらに、各話の倒叙スタイルそのものに仕掛けがある。ネタバレになるので詳しく書けないが、非常に凝った作品なのだ。
また、道頓堀川を始め、蛙ノ山古墳、摂津峡、大阪城西の丸庭園など、大阪の名所旧跡が、事件と深くかかわっているのも、読みどころとなっている。大阪に行く機会があったら、本書片手に聖地巡礼をしてみてはいかがだろう。
by 細谷正充