書架の細充 2025-04「0能力者ミナト12」
文人墨客編集部より、文芸評論家であり書評家である細谷正充氏が気になる本を不定期に紹介する「書架の細充」をお送りします。
今回、ご紹介いたしますのは
「0能力者ミナト12」
著者 葉山 透
定価: 946円 (本体860円+税)
発売日:2025年02月25日
判型:文庫判
ページ数:354
ISBN:9784049161984
KADOKAWA メディアワークス文庫https://www.kadokawa.co.jp/product/322410000032/
二〇二四年に、長年中断していたライトノベル『9S〈ナインエス〉』を完結させた葉山透が、もうひとつの人気シリーズ『0能力者ミナト』も完結させた。『9S』ほどではないが、こちらも長期にわたり中断していただけに、きちんとフィナーレを迎えたことを喜びたい。自分が年を取ったからだろうが、いつまでも終わらない物語より、納得できる終わり方をした物語を求めてしまうのである。
と、個人的な想いを述べてしまったが、一番肝心なのは作品の面白さだ。その点、ラストとなる十二巻も、いつものように快調である。法力や霊力がないため、退魔師たちの業界では〝零能力者〟と揶揄されながら、驚くべき洞察力で怪異の正体を暴き、奇想天外な方法で事件や騒動を解決してきた九条湊。御陰神道の巫女で高校生の山神沙耶と、密教を信奉している総本山で子供でありながら強力な法力を持つ赤羽ユウキとチームを組んでいるが、そろそろ二人は旅立ちの時がきたようだ。
そんなとき、黄泉平坂らしい地下洞が発見されるが、そこにはゾンビのような存在がいた。沙耶とユウキが地下洞に取り残され、珍しく焦るミナトが、ついにたどり着いた結論は、そうきたかとビックリ仰天。よくこんなことを考えつくものである。
さらに正体の判明した怪異を倒す方法が、やはりビックリ仰天もの。ここがシリーズの最大の魅力といっていい。最後の最後まで、楽しいシリーズだった。
なお、完結に相応しい内容ではあるが、今後もシリーズを続けようと思えば可能である。シリーズの第二シーズン、もしくは成長した沙耶とユウキの出てくる番外篇を書いてくれないだろうか。冒頭の、「納得できる終わり方をした物語を求める」という言葉と矛盾するようだが、大好きなシリーズとお別れするのが、淋しくてならないのである。
by 細谷正充