書架之細充 2022 第八回

文人墨客編集部より、文芸評論家であり書評家である細谷正充氏が気になる本を不定期に紹介する「書架之細充」をお送りします。

今回、ご紹介いたしますのは、

神々の歩法
著者:宮澤伊織
レーベル創元日本SF叢書
初版:2022年6月30日
ISBN:978-4-488-01846-7
装画:加藤直之
装幀:岩郷重力+N.T
http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488018467

 これだよ。こういうSFが好きなんだよ! 第六回創元SF短編賞を受賞した、宮澤伊織の「神々の歩法」を読んだとき、そんなふうに思い、興奮した。

内容は、地球人に憑依した狂った高次元生命体と、地球を守ろうとする者たちの戦いを描いたアクションSFだ。絶望的な任務に従事しているのは、合衆国特殊作戦軍・陸軍特殊作戦軍団AOF。リーダーのオブライエンを始め、分隊のメンバーは全身を徹底的にチューンナップされた戦争サイボーグだ。しかし紫禁城を根城にして、広範囲の地域を破壊する、ウクライナ農夫の憑依体に手も足も出ない。そこに現れたのが、アントニーナ・クラメリウス(ニーナ)というチェコの少女だ。〈船長〉と呼ばれるセキュリティ多胞体(高次元生命体にも多様な種類がある)は、訳あって狂うことなく八歳のニーナに憑依。ニーナも狂わなかったが、〈船長〉によって十代の肉体に成長させられる。過去の悲劇から、憑依体の暴威を止めようとするニーナは、オブライエンたちと協力して、憑依体と激しい戦いを繰り広げる。

 本書は、この受賞作を第一話にして、ニーナと分隊の活躍が描かれていく。第二話「草原のサンタ・ムエルテ」で、自律型概念平気「死」に憑依された、カミラ・ベルトランが味方(?)になり、戦力が増強された。そして第三話「エレファントな宇宙」と、第四話「レッド・ムーン・ライジング」で、惜しみなくSFのアイデアを投入。センス・オブ・ワンダーも抜群だ。幼女(外見は美少女)の躍動、作り込まれた設定、楽しんで書いていることが分かるミリタリー描写など、読みどころは満載。面白い小説を捜している人は、是非とも本書を手にしてほしいのである。

by 細谷正充