書架之細充 2021 第十一回
文人墨客編集部より、文芸評論家であり書評家である細谷正充氏が気になる本を紹介する「書架之細充」をお送りします。
今回ご紹介するのは、
万事快調〈オール・グリーンズ〉
著者 波木銅
装幀・表画 城井文平
文藝春秋 1,400円(+税)
ISBN 978-4-16-391396-4
https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163913964
第二十八回松本清張賞を受賞した、波木銅の『万事快調』を一言で表現するなら、どんな言葉が相応しいだろう。「天衣無縫」「オフビート」「自由奔放」……。うーん、どれもピンとこない。あれこれ考えて思いついたのが「無軌道」であった。作者が二十一歳の現役大学生だということもあってだろうが、まさに若さゆえ無軌道といいたくなる内容なのだ。
朴秀美・岩隈真子・矢口美流紅は、茨木のどん詰まりにある、底辺工業高校の二年生。三人とも同じクラスだが、それほど仲がいいわけではない。だが、ラップをやっている秀美が、ひょんなことから大麻を入手。真子や美流紅を巻き込んで園芸愛好会をでっち上げ、学校の屋上で大麻の栽培を始める。その過程で、それぞれに生きづらさを抱えている彼女たちの肖像が、鮮やかに描かれていた。
しかしストーリーは、かなり無軌道だ。秀美たちは大麻の栽培をし、欲しがる人に売る。完全に犯罪なのだが、彼女たちは一線を越えることに躊躇いがない。日常と非日常を、意識することなく往来するのだ。また、秀美に大麻を盗まれた男の行動も予想外。ゆえに話の先が見えず、ワクワクしながらページを捲ってしまうのである。ラストは投げっぱなしもいいところだが、本書には相応しい。
ところが一方で、きちんと計算して書いている部分もある。美流紅の名付けに関するエピソードなど、見事に決まっているではないか。なかなか油断のならない作者である。
ところで賞の選者のひとりである中島京子が、「この賞が人生を狂わせないことを切に願う」といっているが、全面的に同意したい。新人賞の受賞は、アマチュアのゴールであり、プロとしてのスタート。本書から伝わってきた優れた才能を、大きく伸ばしていってほしいのである。
by 細谷正充