書架之細充 2020 第七回

2020年7月12日 - 書架之細充

 文人墨客編集部より、文芸評論家であり書評家である細谷正充氏が気になる本を紹介する「書架之細充」をお送りします。

 今回ご紹介するのは、講談社より
「TITANタイタン」野崎まど:著 1800円(税別)

 寝ころがって読んでいてよかった。いや、野崎まどの『タイタン』のことである。もし椅子に座って読んでいたら、第二章のラストで、転がり落ちたろうから。それほどの衝撃を受けた。こちらの予想をはるかに上回る世界と出会うことが、SFの醍醐味であると、あらためて確信した。
 おっと、ひとりで興奮していないで、ストーリーを説明しよう。物語の舞台は、十二機のAI『タイタン』により、人類が仕事から解放された未来。それどころか食事から恋愛まで、すべてをAIが世話してくれる。まず、この未来世界が、圧倒的な筆致によって描き出される。膨大なイマジネーションを、リアリティのある世界に落とし込む、作者の才能に圧倒された。
 だが、これは序の口だ。趣味で心理学博士をしている内匠成果は、ある仕事を強引に依頼される。北海道に設置されている『タイタン』の処理速度が落ちて、生活に影響が出る可能性が高い。その原因を探るために、『タイタン』のカウンセリングをしてほしいというのだ。嫌々、この仕事を引き受けた成果だが、『タイタン』に向けて放った、ある言葉により、とんでもない事態に巻き込まれるのだった。
 そのとんでもない事態というのが、第二章のラストである。よく、こんなことを考えるものだ。しかも以後の展開が、驚愕に次ぐ驚愕。SFのセンス・オブ・ワンターを、これでもかと堪能した。
 しかも一方で本書は、お仕事小説にもなっている。物理学的に仕事を説明(半村良が『妖星伝』で、時間の説明をする場面を思い出した)しながら、仕事の本質的な意味にまで到達するのだ。優れたSFであり、異色のお仕事小説。これは野崎まどでなければ書けない傑作だ。

ISBN 978-4-06-517715-0