書架之細充 2020 第十一回

文人墨客編集部より、文芸評論家であり書評家である細谷正充氏が気になる本を紹介する「書架之細充」をお送りします。

今回は、「大人だって読みたい! 少女小説ガイド」
編著:嵯峨景子・三村美衣・七木香枝
時事通信社2020年11月30日発行1,800円+税 ISBN 978-4-7887-1704-6

 こんなガイドブックを待っていた。嵯峨景子・三村美衣・七木香枝編の『大人だって読みたい! 少女小説ガイド』のことである。少女小説となっているが、女性向けのライトノベルやライト文芸のガイドブックだ。男性向けに比べ、きちんと本という形で言及されることの少ない女性向け作品を、ガッツリと紹介してくれているのがありがたい。
 しかも作品セレクトがいい。「妖」「宮廷」「仕事」「謎解き」「SF」「青春」「恋愛」「歴史」「異世界」と、九つのカテゴリーに分けて、すでに評価の定まった名作から、現在も刊行中の新作まで、万遍なく目配りされている。
ちなみに、こうしたガイドブックを作ると、つい一作家一作にしがちだが、本書は躊躇せず、複数の作品が取り上げられている。たとえば青木祐子は「仕事」の項で「これは経費で落ちません!」と「ヴィクトリアン・ローズ・テーラー」シリーズが選ばれているのだ。たしかにどちらも面白い作品なので、こうした姿勢は英断といっていいだろう。
 また、西東行の『鳥は星形の庭におりる』、小松由加子の『機械の耳』、谷山由紀の『天夢航海』など、現在ではあまり言及されない良作がピックアップされているのも嬉しい。よくぞこれだけのセレクトを、やってのけたものである。
さらに巻頭に掲載された、津原泰水と若木未生のインタビューが、かつての女性向けライトノベル業界の内幕をぶっちゃけている。これが実に興味深い。業界話の好きな人は必読だ。
 といった感じで、全体的に満足度の高い一冊なのだが、なぜあの作品が入ってないのかと、いいたくなったりもする。個人的には、本宮ことはの「幻獣降臨譚」シリーズが、なかったのが残念。まあ、こうしたことをグチグチいうのも、ガイドブックの楽しみ方なのだ。

by 細谷正充