書架之細充 2020 第二回

2020年2月9日 - 書架の細充

こんにちは
文人墨客編集部より、文芸評論家であり書評家である細谷正充氏が気になる本を紹介する「書架之細充」をお送りします。
今回は「双血の墓碑銘 2」昏式龍也:著 さらちよみ:画 小学舘 ガガガ文庫(本体593円+税)を紹介します。

 書店で、手代木正太郎の『むしめずる姫宮さん2』を買おうとしたときのことだ。その隣に並んでいた、昏式龍也の『双血の墓碑銘2』(ガガガ文庫)に気づいた。帯を見ると幕末維新が舞台のようだ。えええ、完全に見落としていた。裏の紹介文を読んで、すぐに一巻も買った。なぜなら実に私好みの、歴史改変物だったからだ。
 吸血鬼が支配する欧米によって、開国を強いられた日本。鳥羽・伏見の戦いの最中、新選組幹部の伊東甲子太郎(この世界線では死んでいない)に裏切られ、死ぬ直前の隊士・柾隼人は、記憶を失った吸血鬼の少女・柩に血を吸われ眷属となる。しかし柩は、他の吸血鬼に狙われていた。柩の命を守ることを、武士として誓った隼人は、やがて巨大な騒動に巻き込まれていく。
 第一巻のストーリーや、作者の「あとがき」を読むと分かるが、本シリーズは、キム・ニューマンの「ドラキュラ」三部作や、菊地秀行の「吸血鬼ハンター〝D〟」「ウェスタン武芸帳」シリーズの影響を強く受けている。それらの熱愛しているであろう作品のエッセンスを生かしながら、独自の世界を創り上げているのだ。他にも、山田風太郎や夢枕獏も好きなようだ。実にいい趣味である。
 隼人と柩の前に次々と立ちふさがる、吸血鬼となった実在人物。強い吸血鬼だけが使える〝墓碑銘〟という必殺技。柩に隠された秘密(早い段階である程度明かされるが、まだまだ何かありそうだ)。アクションの連続の中に、読者の興味を掻き立てるフックを仕込み、ストーリーを驀進させる。そうだよ、こういう面白いエンターテインメントが読みたいんだよ。次の第三巻で完結予定とのことだが、最後までテンションを落とすことなく、突っ走ってくれることを期待している。

ISBN978-4-09-451818-4