書架之細充 2022 第五回

文人墨客編集部より、文芸評論家であり書評家である細谷正充氏が気になる本を不定期に紹介する「書架之細充」をお送りします。

今回、ご紹介いたしますのは、

銀狐は死なず
鷹樹 烏介(著/文)
装幀+撮影 坂野公一 welle design
撮影協力お手軽モデファイ道https://zeroin.militaryblog.jp/
発行:二見書房
https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784576220161
定価 1,800円+税
ISBN 978-4-576-22016-1
初版年月日 2022年2月20日
書店発売日 2022年1月21日

最近、二見書房が単行本で、次々にエンターテインメント・ノベルを刊行している。どれも面白いのだが、なにか一冊といわれれば、迷わず鷹樹烏介の『銀狐は死なず』を推す。作者の「こういう作品が書きたかったんだ」という、熱い想いが伝わってくる活劇小説だ。

日本人の母とロシア人の父の間に生れ、ロシアで過酷な生活をおくった〝銀狐〟。かつてプロボクサーだった彼は、ある理由で一線を踏み外し、現在は武装強盗をしている。しかし自分が時代遅れになっていることを感じ、広域暴力団『山内組』の新規事業費七億円の奪取を最後に、引退するつもりだ。ところが襲撃した現金輸送車に、七億円は積まれてなかった。それにもかかわらず、銀狐が七億円強奪犯として、ヤクザたちに追われる。誰かの罠か。危地を脱した彼を、恐るべき敵が追いかける。

銀狐を追いかけるのは、暴力団に雇われた傭兵のカロと、別の武闘派暴力団の組長たち。死と暴力をまき散らしながら肉薄してくる彼らと、銀狐の死闘が凄い! 銃撃戦+肉弾戦=アクションとバイオレンスの祭典。血が滾るとは、このことか。ストーリーにも綾があり、一気読みの面白さだ。

さらに銀狐が、用意しているセーフハウスに入り込んでいた〝野良〟という少女と、疑似的な親子関係になっていく点も見逃せない。ある理由から、パソコンやサバイバルの技術を持つ野良。やはり過酷な生活をしていた彼女に、銀狐は自分の過去と、ある人物を重ね合わせ、護ることを決意する。職業犯罪者を魅力的なヒーローとして屹立させる、作者の手腕は確かなものがあった。近年、威勢のいい活劇小説が見当たらないと嘆いている人にとって、必読の一冊なのである。

by 細谷正充