書架之細充 2022 第六回

文人墨客編集部より、文芸評論家であり書評家である細谷正充氏が気になる本を不定期に紹介する「書架之細充」をお送りします。

今回、ご紹介いたしますのは、

逆転のアリバイ 刑事花房京子
香納諒一/著
2022年4月20日発売
定価:1,870円(税込み)
ISBN 978-4-334-91458-5
装幀 泉沢光雄
表画 大野博美https://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334914585

香納諒一の倒叙ミステリー「刑事花房京子」シリーズの、第二弾が刊行された。倒叙ミステリーとは、最初に犯人側の視点で犯行を描き、それから捜査側の視点で進行(適宜、犯人側の視点が入る作品もある)する作品のことだ。などという説明より、テレビドラマの『刑事コロンボ』や『古畑任三郎』みたいな話といった方が、分かりやすいかもしれない。

この『刑事コロンボ』の影響を強く感じる作品が、大倉崇裕の「福家警部補」シリーズであり、作者の「刑事花房京子」シリーズなのである。ただし新たな倒叙ミステリーを書くからには、創意工夫が必要だ。その点本書は、犯人視点の第一章から驚かせてくれる。詳しくは書かないが、いきなりの急展開にビックリすると同時に、こんな複雑な事件をどう解決するのかとワクワクしてしまった。

そして第二章から、主人公の花房京子が登場。女性にしては背が高く、人に好かれやすい、警視庁の刑事だ。他の刑事が犯人の企んだ事件の構図に納得しているが、彼女はささいな疑問から、独自の視点で捜査を進める。早い段階で真犯人に気づき、証拠を捜しながら、犯人と心理戦を繰り広げる。

これだけで面白いのだが、個人的に感心したのが、途中からクローズアップされる、ある物の使い方。ああ、これは『刑事コロンボ』の「ロンドンの傘」で、コロンボが犯人を仕留めたネタを意識しているのか。だとしても同じ使い方はしないだろう。どう捻ってくるのかと思ったら、まったく違う方向から〝とどめの一撃〟がやってきた。つまり、『刑事コロンボ』なんて見ていて当たり前という、ミステリー・ファンこそ、驚きが深まるのである。もちろん知らなくても問題ないが、知っていればもっと面白さが深まる。香納諒一、やってくれるものだ。

by 細谷正充