書架の細充 2023ー01

文人墨客編集部より、文芸評論家であり書評家である細谷正充氏が気になる本を不定期に紹介する「書架之細充」をお送りします。

今回、ご紹介いたしますのは、

短篇集『本の幽霊』

著者:西崎憲

装丁:大島依提亜

装画作品:桃山鈴子

定価:1,500円+税 ISBN:978-4-86732-014-3

出版社 ‏ : ‎ ナナロク社 (2022/9/27)

発売日 ‏ : ‎ 2022/9/27

 

英米の幻想怪奇小説の名アンソロジストとして知られる西崎憲は、同時に優れた作家でもある。他にも音楽方面での活動もあるが、ここでは関係ないので省くことにしよう。

私はまず、アンソロジストとして作者を知り、その流れで小説も読むようになった。書店で新刊を目にすれば、そのたびに購入している。にもかかわらず、本書は見落としそうになった。ナナロク社という、小出版社から刊行されたからだ。誰かのツイッターで存在を知り、あわてて検索したら、幸いにもアマゾンにあったので購入できた。いや、危なかった(その後、新宿の紀伊國屋書店に行ったら置いてあったのでズッコケた)。

それはさておき本書である。まず造本が素晴らしい。短篇五作を収録した小型本だが、実に瀟洒なのである。所持しているだけで喜びを感じる本とは、このようなものをいうのであろう。

もちろん内容も素晴らしい。冒頭の「本の幽霊」は古書怪談だ。静謐な筆致で、奇妙な出来事が淡々と語られる。派手な出来事は何もないが、本書のベストといいたくなる味わい深い作品だ。

その他、詩人のイベントに参加した主人公が、幻想的な世界を体験する「ふゆのほん」や、本を読まない市長の本との出会いを、ファンタジックに描いた「砂嘴の上の図書館」など、どれもよかった。すべて本に関係した話というのも、嬉しい。

もっとも「あかるい冬の窓」は、本との関連付けが、ちょっと強引か。ただ、ストーリーは、実にいい。主人公が目撃する光景と、そのときに覚えた感情に、共感せずにはいられない。世界は儚く、だけど時たま美しい瞬間がある。そんなふうに思わせてくれる一冊なのだ。

by 細谷正充