書架之細充 2020 第六回

2020年5月18日 - 刊行物

 文人墨客編集部より、文芸評論家であり書評家である細谷正充氏が気になる本を紹介する「書架之細充」をお送りします。

 今回は、「同じクラスに何かの主人公がいる」昆布山葵:著 KADOKAWA1,300円+税

 この作品、ネットの小説投稿サイト「小説家になろう」に掲載され、ジャル別日間ランキングの上位になったことがあるので、タイトルは知っていた。しかし時間がなくてスルーしてしまった。失敗である。こんなに面白いのだったら、もっと早く読むべきだった。
 物語の主人公は、高校生の二宮蒼太。だが彼は、自分をモブキャラだと思っている。さらに自分の生きている世界が、何かの物語だと確信している。なぜなら同じクラスに、特殊能力を駆使して怪人と戦っているヒーローの神宮司流星がいたからだ。理由は不明だが、世界がフィクションであることに気付いている二宮。とはいえ、何かするつもりはない。平穏な毎日を過ごしたいだけだ。しかし、クラスメートとの会話で、ついツッコミを入れたことから、神宮司に目を付けられ、友達になってしまうのだった。
 というのが第一章の粗筋だ。以後、第二章では、世界の強制力に悩むヒロインの高三潴桜子が登場。第三章では、神宮司と桜子が苦戦する強敵との戦いに、二宮も巻き込まれる。モブキャラであろうとした二宮のツッコミは、メタ的なギャグで笑える。しかもギャグだと思っていたら、実は伏線だしたという場合が多々あり。よく考えられたストーリーだ。
 さらに本書は、青春と成長の物語でもある。フィクションの登場人物と自覚しているがゆえに、モブキャラであることに甘んじようとしていた二宮。しかし神宮司や桜子の、物語の都合で動かされる在り方を知って、少しだけ変わる。この世界が何なのか、結局のところ分からない。でも、いいじゃないか。たしかに二宮は、自分の意思を持って、そこで生きているのだから。どんなに世界の強制力が強くても、これだけは〝主人公〟から、奪うことができないのである。

ISBN978-4-04-109179-1