第四回 書評家・細谷正充賞 選評-2

羽生飛鳥『蝶として死す 平家物語推理抄』(東京創元社)
表画:立原圭子
装幀:岩郷重力+WONDER WORKZ。
定価 1800円+税
初版:2021年4月9日
ISBN:978-4-488-02012-5
Cコード:C0093
http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488020125

 今年は時代ミステリーの当たり年である。伊吹亜門の『雨と短銃』『幻月と探偵』、米澤穂信の『黒牢城』、皆川博子の『インタヴュー・ウィズ・プリズナー』、山本巧次の『鷹の城』、獅子宮敏彦の『豊臣探偵奇譚』、第十回アガサ・クリスティー賞優秀賞を受賞した宮園ありあの『ヴェルサイユ宮の聖殺人』、第六十七回江戸川乱歩賞を受賞した桃野雑派の『老虎残夢』などなど、多数の作品を挙げることができる。その中から選んだのが、羽生飛鳥の『蝶として死す 平家物語推理抄』だ。
 内容について書く前に、時代ミステリーというジャンルについて触れておきたい。時代ミステリーとは過去を舞台にしたミステリー作品を指す。それに対して、現代を舞台に歴史上の謎や、それに関連した事件を追う作品を、歴史ミステリーという。ただし最近は、過去を舞台にした作品を、歴史ミステリーという人が増えている。
 これについて納得できるところがある。近年の時代ミステリーは、架空の事件を史実ときちんと絡ませ、歴史小説の側面を強めているからだ。どうせなら、ネオ歴史ミステリーのような、新たなジャンル名が必要かもしれない。本書もそのような作品といっていいだろう。
 全五話の連作集である本書は、平家の興亡を背景としている。主人公は平頼盛。清盛の異母弟だが、平家一門と決裂して、激動の時代を生き抜いた実在人物だ。名探偵役に、面白い人物を抜擢したものである。
 さらに各話が凝っている。第十五回ミステリーズ!新人賞を受賞した「屍実盛」は、斎藤別当実盛の最期を題材にして、特殊な被害者当てミステリーを成立させた。他の四話も、時代や人物に合わせた謎が提示されている。また、頼盛が名探偵役を務める理由も、納得のいくものであった。
 さらに注目すべき点は、それぞれの謎を包み込んでいる、より大きな思惑や、人物の狙いだ。これにより物語に厚みが生まれ、平清盛や源頼朝などの権力者に頭を押さえられながら、なんとか家族や自分の一門の生き残りを図る、頼盛の苦闘が浮かび上がってくるのだ。
 なお作者は、齋藤飛鳥名義で、二〇一〇年より児童文学の世界で活躍している。文章も人物造形も達者だが、それもプロとして腕を磨いてきたからなのだろう。だから物語を積み重ねて到達した、ラストの光景から、切ない美しさが伝わってくる。優れた時代ミステリーにして、優れた歴史小説なのである。