第二回 細谷賞! 作品紹介 6

2019年12月30日 - ニュース

2019年10月 第二回細谷賞が決定しました。
受賞作品と書評を順次紹介していきます。

最終回は『跡とり娘 小間もの丸藤看板娘』宮本紀子
第二回細谷正充賞を決めるにあたって、まず考えたのが、文庫書下ろし若しくは文庫オリジナルの作品を入れたいということであった。現在の文芸で重要な地位を占める文庫作品を、きちんと評価したいからである。その観点から文庫作品を眺めたとき、浮かび上がってきたのが本書である。玄人受けの作品を書いていた宮本紀子だが、本書で大きくエンターテインメント側に舵を切った。そのチャレンジは成功したといっていい。訳あって品川で成長し、年頃になって日本橋の小間物屋に戻ってきた里久。商家の娘らしくない性格になった彼女に家族は戸惑う。だが、人の輪を広げていく彼女の力が、しだいに周囲を変えていく。江戸の優しい世界に、気持ちよく遊ばせてくれる、楽しい作品なのである。また、ヒロインを涼やかに描いた、カバー・イラストも素晴らしい。本の魅力は総合的なものだと、あらためて確信させてくれた。

角川春樹事務所 ISBN-9784758442411 定価680円(税別)