書架之細充 2021 第五回

2021年4月9日 - 書架之細充

文人墨客編集部より、文芸評論家であり書評家である細谷正充氏が気になる本を紹介する「書架之細充」をお送りします。

今回は、川瀬七緒・著「ヴィンテージガール 仕立屋探偵 桐ヶ谷京介」です。
装幀 川名潤
講談社 ISBN 978-4-06-522453-3
発行日 2021年02月19日
定価 : 本体1,550円(税別)

 法医昆虫学者・赤堀涼子を主人公にしたシリーズで、独自のミステリー世界を創り上げた川瀬七緒が、新たな境地に挑んだ。それが『ヴィンテージガール 仕立屋探偵 桐ヶ谷京介』だ。
 主人公の桐ヶ谷京介は、東京の高円寺南商店街に店を構える服装ブロカーだ。世界の有名デザイナーたちの依頼を受け、埋もれている服装関係の凄腕職人を紹介している。ただし商店街の人々からは、うさんくさく思われていた。また、かつて美術解剖学を専攻しており、着衣の状態から病気や、DVを受けていることを見抜くこともできる。だが、こちらも信用してもらえず、警察にDVのことを連絡しても相手にしてもらえない。
 そんな彼が、テレビで放送された、十年前に少女の死体が団地の一室で発見された事件に反応した。映し出された少女の服を見て、自分ならば事件の真相に迫れると確信したのだ。商店街から少し離れたところにある雑貨屋の店番をしている、旧知の水森小春を相棒にして京介は、なんとか少女の服を実際に見ようとするのだった。
 美術解剖学とは、人体を主とした、美術的表現のための解剖学である。これを名探偵の推理の道具とした、作者の発想が優れている。さらに少女の服の独特の特徴的なテキスタイルなど、服飾関係の知識も巧みに盛り込まれているのだ。そこに京介だけでなく、市井に生きる人々のプロフェッショナルな知見が活用される。これにより、いままでにないミステリーが誕生したのである。
 さらに素人探偵が刑事事件に介入することの難しさが、リアルに描かれている点も、本書の読みどころだ。また、事件にこだわる主人公の内面の葛藤や、少女の死の真相、その後の意外な真実など注目ポイントは多い。本の帯で大沢在昌が「作者は鉱脈を見つけた。シリーズ化を期待する」と書いているが、完全に同意。シリーズ化してくださいと、全力で頼みたい秀作なのだ。

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