書架之細充 2021 第三回

2021年3月6日 - 書架之細充

文人墨客編集部より、文芸評論家であり書評家である細谷正充氏が気になる本を紹介する「書架之細充」をお送りします。

今回は、小森陽一・著「インナーアース」です。
表画(造形)竹谷隆之 装丁 三村漢(niwa no niwa)
集英社文庫 ISBN:978-4-08-744215-1
発売日 2021年2月19日
定価 780円(+税)

 地球の地下にある大空洞を旅する、ジュヘル・ヴェルヌの冒険物語『地底旅行』を読んだことのある人は多いだろう。その地底旅行を現代でやろうとするとどうなるのか。なんとお仕事小説になるのである。証拠は、小森陽一の『インナーアース』(集英社文庫)だ。
 北九州市に本社を置く、地図製作会社「メイキョウ」は、一昨年、悲願の住宅地図全国制覇を成し遂げた。しかし広報課長の天河結は、それ以来、会社のモチベーションが下がっているのではないかと危惧している。そんなときパーティーで、「リーデンブロック」という聞きなれない会社の代表取締役・蛍石喬から声をかけられる。蛍石の話によると、日本海の地下約二〇キロ付近に、琵琶湖の半分ほどの空洞が見つかったとのこと。その地下空洞の地図を、メイキョウで作ってほしいというのだ。
 これがメイキョウの新たな目的になると確信した天河は、ひそかに動き出す。サーベイ本部の鷹目進一郎、広報室の桃田瑠璃、ケイビング好きの若手社員・駒根木晶を引き入れ、準備を進めながら、会社に話を通そうとするのだった。
 と、粗筋を書いたが、天河はサブ主人公。メインは晶である。地面を掘り進む特殊車両〈道行〉に仲間たちと乗り込み、高温で真っ暗な地底世界に挑む。危険な場所での仕事で、仲間とぶつかることもあれば、意外な一面を知ることもある。未知の世界を地図にしようとする晶たちの奮闘が、楽しい読物になっているのだ。
 一方、地上に残った天河にも、大きなドラマが訪れる。あまり詳しく書けないが、こういう方向にストーリーを持っていくのかと驚いた。そして終盤で爆発する、メイキョウ社員の地図屋魂に拍手喝采。愉快で痛快な、二十一世紀の≪驚異の旅≫を堪能した。

https://books.shueisha.co.jp/items/contents.html?isbn=978-4-08-744215-1